「時間は戻らなく、同じ時間は過ごせない」を忘れずに

内分泌内科・血液内科病棟(5南病棟)
渡邉 優美

 今年度で看護師5年目となり、病棟スタッフの中堅看護師が減ったこともあって、最近の夜勤業務ではフリー業務が多く、日勤勤務であってもコーディネーターや検査番がほとんどであったため、じっくり患者さんと関わる機会があまりなかった。
 ある日、久しぶりに日勤勤務になり終末期の患者さんを受け持った。部屋に訪れると既に娘さんが付き添われていた。私はバイタルサインを取りながら、何か一緒にケアなどをし、思い出作りまでとは言わないが一緒に過ごす機会を作れたらと思った。髪が少し汚れているような気がしたため洗髪を提案した。すると、娘さんはとても嬉しそうな顔をされ、一緒に洗髪をすることになった。ベッド上での洗髪は娘さんにとっては初めての体験であり、慣れない手つきで患者さんの髪を流した。ケアが終わり、娘さんは「お母さんさっぱりしたね」と声をかけられた。患者さんの口角が少し上がり微笑んだようだった。娘さんは嬉しそうであった。それを見てわたしもほっこりした気持ちになったが、ああよかったとほっとした気持ちも持っていた。それは、提案したものの患者さんは終末期であり、体力も限界に近かったため本当に患者さんにとって良いことなのかと思いながらケアをしていたからである。
 物品を片付けしばらくして再び訪室すると、患者さんのお兄さんのご家族の方々がお見舞いにいらっしゃっており、娘さんと共に患者さんを囲みながら声をかけていた。ある方が自動販売機でジュースを買い、皆に配っていた。ふと以前いた別の終末期の患者さんのことを思い出した。その方は嚥下状態が非常に悪く、抹消点滴も限界な状態であった。終末期ケアとして大好物のビールをスポンジに染み込ませ味だけで楽しんでもらおうと試みたところ、ビールの缶を見た時に手を伸ばして口まで持っていこうとし、それまで見たことがない姿であったことを思い出した。今日の担当患者さんは目を瞑り、声かけになんとなく返事をする状態であったため厳しいかとも思った。患者さんへジュースを飲んでみようかと聞いたところ小さく頷かれたため、スポンジにジュースを染み込ませ口腔内を撫でてみた。美味しいかとお兄さんが声をかけると、患者さんは右腕を上げ右手でグーサインを作って見せてくれたのだった。ご家族は良かったねと、とても喜ばれており私も嬉しかった。その方は3日後安らかに亡くなり、私はあの時行動して良かったなと思った。
 当たり前のことであるが、時間は戻らなく同じ時間は過ごせない。重々理解していることではあったが、忙しいという気持ちの方がいっぱいで、なんとなく忘れてしまっていたなとこの出来事を通して感じた。受け持ち看護師としてケアはもちろん、カンファレンスに議題の提示や他看護師のサポート役としても患者さんの毎日が充実した生活になる関わりをしていきたいなと思った。