看護師として信頼感を得るということ

5北病棟 能登今日子

 私は看護師になってから、患者の思いと医療者の考えが合わないという場面をよく目の当たりにしていた。自分自身でもそのことを実感することがあり、患者の気持ちがわかるからこそ、そのジレンマに悩むことが良くあった。今回の出来ごとで、医療者の考えをただ説明するだけでわかってもらうのではなく、日頃の行動を見てもらうことが看護師としての信頼感を得て、医療者視点の考えをわかってもらえると実感し、学ぶことができた。

 認知機能は問題なく、元々の性格がはっきりとしている患者M氏がいた。M氏は痰量が多く、1~2時間おきに吸引を行なわなければならなかった。吸引自体も気管まで吸引チューブを入れなければならず、1回の吸引自体の時間も長いこともあり、つらさを耐えきれずに、吸引前に必ずM氏は看護師へ悪態をついていた。そのこともあり、M氏を受け持つことを嫌がる看護師は多く、私もその一人だった。吸引自体が苦しい処置であるということはわかっているつもりで行なっていたからこそ、その悪態がつらく逃げ出したくなることが多かった。M氏を受け持つことが多かった時期に、「吸引がつらいという気持ちはわかるのですが、痰をとらないと窒息を起こしたり、肺炎が悪化したりしてMさん自身がとても辛い思いをしますよ?Mさんが毎回つらいことを私達に言うので、こちらもつらくなってしまいます。」と強い口調で伝えてしまったことがあった。言ってしまったと罰の悪い思いをしていると「医者でもないくせに、適当な事言って」と言い返され、そもそも私自身が信頼されていないのだと実感し、更にショックを受けた。その後M氏は退院し、再び入院をしたため、5北病棟では長期間の入院生活を送ることになった。その後もM氏を受け持つことには抵抗があった。しかし、日を追うごとに悪態をつく回数が減っていった。M氏自身の調子が悪くなっていたこともあったかもしれないが、それでも私達の処置を嫌がらなくなった印象があった。そして、別のスタッフからM氏が私に対して「昔言い合いをした人。でもあの人、きちんとやってくれるのよね。」と言っていた事を教えられた。私は、新人の頃に先輩から、「その日の受け持ち患者をみて、ただルーチンでやらなきゃいけないことをこなすのではなく、1個でもいいから患者自身のために自分が今日出来ることは何があるかな?と考えてやると看護師らしい仕事ができるんじゃないかな?」と言われたことがあり、その考えをとても大切にしていた。M氏に対しても、口の中がかなり痰で汚れているから今日1日できれいにしよう、排痰ケアをして、痰をとりきればM氏の呼吸は楽になるだろうから、きちんと説明をして痰をしっかり取りきれるようにしよう、などルーチンの仕事だけでなく+αのことができるように意識して介入するようにしていた。当たり前のことであり、小さなことだが、そのことでM氏から先ほどのような言葉聞くことだでき、以前のように吸引前の悪態を聞くことがなくなったのではないか?と思った。

 今回の出来事から、看護師としての日頃の行動を患者は見ており、その結果信頼感を得ることが出来、その信頼感があるからこそ「患者にとってつらい処置」や「医療者にとってしか必要性が感じられないこと」で、しかし「どうしても必要であること」を、患者に理解してもらえることもあるのだと感じることができた。