内視鏡検査をトラウマにさせない

外来統括検査 佐藤 絹子

 看護師として、消化器内視鏡技師として、特に大切にしていることは、初めて検査を受ける患者さんを内視鏡検査をトラウマにしないということです。対策型健診にも食道・胃・十二指腸内視鏡検査(EGD)が導入され、より身近な検査となっております。私が初めてEGDを受けている患者さんを見たのは、看護師になり5年目のことでした。目の前でこんなに苦しがっている人を前に、「私は何ができるのだろう・・・」という強い衝撃は、今でも忘れられません。

 その経験から10年経ち、内視鏡検査・治療に係るようになりました。そして、私自身も健診で21回ほどEGDの経験をしました。何度経験しても緊張感と不安感は消えないものです。“患者さんの気持ちを忘れない”という思いで受けてきました。特に初めてEGDを受ける患者さんは、疾患への不安はもちろんのこと、苦しいつらい検査というイメージが否めない検査です。緊張と不安でいっぱいになって検査に望まれる方がほとんどです。初回検査の方には、「少しでも楽に受けられるコツをお伝えしますね」と前置きをして、検査のための内服薬の目的、検査の流れ、検査を受けるコツ(呼吸の仕方、のどの違和感と唾液の出し方)を説明します。COVID-19の感染拡大前には、のどに手を当てこんな感じになりますと、実際に咽頭の違和感をイメージしていただきました。検査ベッドでシムス位になり、衣服が汚染されないよう襟元のシートの一にも注意を払います。咽頭麻酔が効いてきたらいよいよスコープの挿入です。肩や背中に手を置いてタッチングを行います。タッチングは、安心感と不安の軽減に有効な手段です。食道に挿入されるまでが一番の難関です。医師とともに声掛けをしてスムーズな挿入へ導きます。食道・胃・十二指腸と観察をしていきますが、要所、要所で顔の位置を整えたり、呼吸の仕方を促したり観察場所を伝えたりしながらスムーズな検査へと導きます。上手にできていることは、ほめて承認します。緊張で唇が小刻みにふるえている人、指がこわばっている人、不安で看護師の手をギュッと握る人もいらっしゃいます。検査が無事に終わり涙と鼻水と唾液でぐちゃぐちゃになった顔を拭くころには、患者さんも緊張感から解き放れ安堵感がみられます。「上手にできましたね。よく頑張りましたね。お疲れさまでした。等々」ねぎらいの言葉も忘れません。

 先日、39歳男性 初めてのEGD。横になったとたん「だめかもしれません」とマウスピースを持ち上げ起き上がろうとしました。ここでやめたら、内視鏡検査ができなかったら今後受けてもらえなくなるかも…と思い患者の不安感を受容し、一度だけ挑戦してみましょうと促し医師、看護師、臨床工学技士で、温かく見守りながら挑みました。結果は、嘔吐反射もなくスムーズに検査を終えることができました。無事に検査を受けることができた喜びは、患者さんと同じくらい私達も嬉しく思います。短いかかわりの中ではありますが、一人一人を大切に、五感をフル活動し、言葉やしぐさから不安や恐怖を察知し、手で、言葉でスムーズな検査へと導く内視鏡看護を極めていきたいと思います。