気配りのプロを目指して

2北病棟 斉藤 諒

 日々忙しい業務の中で私が出来るだけ心がけていることがある。それは「ナースコールを押させないようにする。」ことだ。これは決して、ナースコールを見えないとこに置いたり、押させないようにするなど意地悪をする意味ではない。

 ケアやナースコールで訪室し、用事が終わる去り際に「何か他に手伝える事はありませんか?」という言葉を付け加える。また自身で配慮しなければならない点に気付いたときには、「水を汲んでおきましょうか?」「トイレは大丈夫でしょうか?」といった、今後ナースコールを押すかも知れない用事をこちらからいち早く声をかけることだ。急がしい夜勤中でもなるべく去り際の一声と、気配りの目線を忘れないことを心がける。

 ある日、病棟でも一番コールの多いAさんを受け持った時のことだ。Aさんはナースコールを押しては細かいことや、やって欲しいことを小出しにする。コールを鳴らし対応しては数分後には別の用事で鳴らしを繰り返すため、心のなかでは「一度に言ってくれればいいのに!」と何度も思うことがあった。しかしそんな気持ちを堪えながら、心の中で「コールを鳴らす用事が思いつかないくらい完璧に去ってやる。」と不思議な対抗心が湧くことがあった。「足がかゆいから軟膏塗ってくれ。」と言われた時にはただ軟膏を塗るだけではなく、温タオルでの清拭をしてから軟膏を塗る一手間を加える。バイタル測定後には手の届くところに必要な物を完璧に置いた環境整備を行う。いつか「痛い。」と言うであろう、下肢を丁寧にマッサージするなど考え付く限りのあらゆる気配りを行った。しかしA氏はやはり数分後にはナースコールを押すのであった。

 人の要求を完璧に予測して事前にこなすことは難しい。だがこういったちょっとした対抗心からの一手間を行い続けた結果、A氏はなにか困ったことがあったら「斉藤君はいないのか。」と話すようになった。私の心の中でのA氏との密かな気配り勝負は負けてしまったものの、親身に接した自分の気配りは無駄ではなく、どこか認められた気がした。これからもナースコールを押させない、気配りのプロを目指して行きたい。