患者の気持ちに寄り添いたい

脊椎外科病棟(4北病棟)
北田 美由紀

 今回のレポート課題について、昨年の出来事などを振り返ってみたところ、患者の苦しみ、そしてその後からの喜びへの変化について具体的に接し、自分も喜びと感じた出来事であったため、それについて記載していきたいと思う。
 患者はT氏70歳代女性、腰椎圧迫骨折で体動困難となり入院された。もともと一人暮らしで自立されており、キーパーソンは娘である。一旦他病棟で入院され数日後に当病棟へ転入された。入院時より、疼痛以外でも看護師の対応や療養環境などに対して訴えがあり、その都度対応しているという情報が看護記録や申し送りであった。当病棟へ転入してからも、「痛い!何度も同じこと聞かないで!」「こんなにうるさい部屋は初めて」「1週間もいるのに何もしてくれない。こんなところは初めてよ」等、時には怒鳴るような口調で訴えが多い状況であった。そのような中、私はたまたまその約1週間前、「信念対立解明アプローチ」をテーマにした外部研修を受けてきていた。その中で、患者が病気や入院という体験によって自分自身の信念対立が起こり、今までなら常識で理解できることが、非常識と受け止めて怒りに変わってしまう、ということを思い出した。目の前にいるT氏はまさにこのような状況ではないか、今こそ研修で受けたフレッシュな頭でこの患者と対応していこう、と考えたのである。具体的に何をどうしようということだけでなく、“今T氏は、突然の入院と痛みで動けず苦しい思いをしている。だから本来のT氏ではなく、つらい状況で切羽詰まった叫びなんだ”と、私はT氏状況を理解する気持ちを持ち続ける努力をしてきた。すると不思議なことに、自分のT氏に対するネガティブな気持ちはほとんどなく、もっと広い心でみていきたいと思える自分を自覚できたのである。その後T氏は入院を10日で手術が行われ、徐々に回復し術後約10日で歩いて退院されたのである。退院2日前にゆっくり話をする時間があり、その時T氏は「あの時は本当につらかったわ。もうどうなるのかわけがわからなくて。こんなに歩けるようになってよかった。すごくたくさんひどいこと言って迷惑かけて本当にごめんなさい。」と手をさしのべてやわらかい笑顔で話してくれたことが印象的であった。まさに、病気、入院という未知の世界に突然に閉じ込められた患者が、回復していくことで本来の姿に戻っていた瞬間を感じ、非常に嬉しく、つい涙ぐんでしまったのである。
 以上が私が体験した嬉しかった出来事である。長年看護師をやってきたが、私も一人の人間であり、患者の言動でイライラすることは多々あり、心が萎える事もしばしばある。学生時代から学んできたこと“患者の気持ちに寄り添う”という至ってシンプル且つ難しいテーマに、体力気力が続く限りこれからも向き合っていきたい。